不可愛死
三蔵の恋人 編
恋の病は 医者でも治せないというけれど、
では 恋の病では死なないのだろうか?
苦しく切ないほどの胸のうち 恋の病気に効く薬はないという。
恋は 一生治らない病だ。
なるほど・・・・と 私もよく思っていた。
だけど 今私がかかっている病は 「恋」ではない。
あえて この感情に名を付けて 呼ぶのであれば それは「愛」だと 私は思う。
愛という病気も また医者では治らないだろうし、薬もないであろう。
だが 恋では死ねないかもしれないが ひょっとしたら愛では
死ぬことがあるかもしれない。
恋に自己犠牲は ないかもしれないが、愛には それがあると思うから・・・・・・。
でも 私は 違う「愛」を選んだ。
私の初めて恋は 金蝉が相手だったと 今もそう思っている。
幼い頃からの付き合いだったが 金蝉が ある日を境に
男として私の心に住むようになり、彼の全てが愛しく思えた。
それは金蝉も同じであったらしく 他の人には見せない顔を
私には見せてくれるようになり、
そして 私には何か特別な感情を持っていてくれるようだった。
ある日 私達は お互いの想いを告白することとなり、両思いとなった。
それから 私達には 幸せな時が続いていた。
捲簾や天蓬 そして 悟空とのふれあいの中で
あの 常春の国のような世界と同様の
気持ちのままに 続いてゆくと信じた幸せなとき・・・・・・・。
そして 私だけが残された時には、自己憐憫から死のうともしたけれど
それはかなわなかった。
今思えば あの時に死のうとしたのは 自分のためだった。
金蝉のためや悟空のためや 天蓬や捲簾のためでもない。
自分の心の平安のために望んだ「死」だった。
だから あれは「恋」だったと わかる。
金蝉の残して行かなければならなかった気持ちや 切ない想いを思いやるほど
私は大人ではなかったのだ。
『』という 字を与えてくれた三蔵への気持ちは
「愛」だと そう思っている。
いつまでも金蝉を想い切れなかった私を 「待つ。」と言ってくれた三蔵。
私が望むまで 身体を重ねる事を 求めなかった三蔵。
私にだけは 虚勢を張らない姿を見せてくれる三蔵。
そんな三蔵の事を思うとき、私を犠牲にしても
三蔵の命を守りたいと願う自分がいるのだ。
もし その事を 私が口にしたなら 三蔵はきっと怒るだろう。
「の命と引き換えに 俺が助かるなんて そんなこと納得できると思うのか?」
そう言って 私の考えや思いなど あっさりと討ち払うに決まっている。
きっと そうだ・・・・・・・・・。
だからこそ 私は三蔵を 私の精一杯で守りたいと思う。
実際は 私の方が守られているのだけれど、それでも 三蔵を守りたい。
この辛く厳しい旅で 私が 三蔵を守ってあげられることなど 何もないかもしれない。
足手まといでしかないはずの私を 黙って連れて行ってくれる三蔵。
少しだけでもいい 誰からも与えられない安らぎや癒しを
私が与えられることが出来たらいいと そう思っている。
「。」と 三蔵が呼んでくれるたびに 笑顔で答えたい。
「。」と 三蔵に求められるたびに 全身で応じてあげたい。
「。」と 差し出された手に 私の全てをゆだねたい。
そのために 三蔵の側に存在するために 私は私の全力で 生きる事をこの手に
勝ち取って行かなければならない。
この手を 血に染め 返り血を浴びることになっても・・・・・・。
私の選んだ「愛」は・・・・・・・・、
「愛ゆえに 死なない事。」なのだ。
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